ツルの舞い

陽気がよいときや、餌撒きのヒトが現れると、よく踊りが始まります。いわゆるツルの舞いですが、飛びはねる動作が混じるので、ツルの踊りと言うべきです。
踊りには特有の動作があり、その一つが「ポンプ動作」。首を曲げて急に前屈みになり、次にすっと首を伸ばし、体を立てて伸び上がります。この繰り返しが、まるでポンプの上下運動にみえます。これが踊りの始まりで、相手を踊りに誘うときも使います。Shall we dance?という誘いは、オスからでもメスからでも構いません。
ツルが急に首を下へ伸ばし、地面に落ちている何かをつまみ、ひょいと空中へ放り投げます。と同時に、ぱっと飛び上がり、ときには落ちてくる物を両足で蹴るまねをします。これが「拾い上げ」と「跳びけり」です(写真9)。

写真9 幼鳥の独りあそび

この他に、背まげや「おじぎ」、「足踏み」とか羽づくろいも組み合わされ、さらに追いかけっこが加わり、複雑な踊りとなります。この動作のうち、多くは喧嘩で使うのと同じで、踊りの起源や働きを考える上で、興味ある点です。
踊りは、年齢、性別、季節、時刻を問いません。独身者も既婚者も、独りでも多数でも、特定の相手でも、不特定とでもよしと、実にさまざまです。とは言っても、やはり春の日中、若いツルが多く踊るのも事実で、既婚者の相手はだいたいベターハーフです。
踊りの役割は単純ではありません。一つは、求愛の働きがあるのでしょう。また、夫婦の絆を強め、繁殖のため体の調子を整えるのに役立つかもしれません。さらに、1羽で踊るのは、遊びとしか言いようがありません。若いツルは、パートナーを変えて踊ることが多いので、踊りながら相手を評価し、気に入る伴侶を選んでいるのかもしれません。踊りの中で、メスとオスがどの様な役割を持つのか、残念ながらまだよく分かりません。
日中、ツルは自由に給餌場の中を動くように見えます。でも、標識ツルを追ってみると、ある程度決まった場所にいることもあります。しかも、家族や番いのメンバーはあまり離れず、一緒に行動します。つまり、冬の群れは、ばらばらな個体の寄せ集めでなく、家族、番い、仲良しグループという単位の集まりです。
従って、群れ全体のリーダーやボスはいません。ただし、どこかへ飛ぶときは、オスが短く小声で飛ぶ合図をして、これに幼鳥やメスが従います。ですから、移動のときのリーダーはオスです。が、それはあくまでも家族や番いのメンバー間のものです。