プロフィール

写真1 羽根をのばす
写真2
体の名称
日本に住む最大の鳥、タンチョウ。その大きさゆえに、色彩の単純さと気品ある配色ゆえに、ときに激しく、ときにおおらかに舞う優雅なしぐさゆえに、人々に愛されてきました。
タンチョウは、鳥自身の持つ清廉な魅力とともに、古くからヒトと関わり、絶滅の危機を抱えた波乱の歴史をきざみ、今という時代に生きています。ではまず、この鳥のプロフィールから。

プロフィール
タンチョウはツル目Gruiformes、ツル科 Gruidae、ツル属 Grusの鳥です。世界共通の名前の学名はGrus japonensis(グルス・ヤポネンシス)、つまり「日本のツル」の意で、英名はJapanese Crane とか、Red-crowned Craneと呼びます。標準和名はタンチョウで、タンチョウヅルとは言いません。
大きさは約160 cm、翼を広げた幅は240 cm。重さは6〜12 kgほどで、オスはメスより少し大きめですが、見た目で雌雄の区別はつきません。染色体数は2n= 80。
漢字で丹頂と書き、丹は赤い、頂はいただきです。ここは皮膚が露出、つまり禿げていて、ニワトリのとさかと同じ。そこに黒く短い剛毛がまばらに生え、小さないぼ状のものが集まり、興奮すると赤く大きく広がります。1歳を過ぎるまで、羽毛で覆われていますが、1才になる前に若はげとなるツルもいます。
黒い足の中間にあるのは踵関節で、膝関節は体の外から見えず、ほかの鳥と同じく、ツルも爪先立ちしています。黒い足はうろこに覆われ、足指は前3本、後ろに小さい1本ですが、歩くとき後趾は使いません。
鶴の一声といわれる大きな声が出るのは、長い気管が胸骨(竜骨突起)のなかまで入って曲がりくねり、管楽器の管の役をしているからです。
翼の先端の大きな羽毛(初列風切り)は10枚で白く、2・3年に一度、5〜6月ころ一斉に抜け落ち(換羽)、約1ヵ月ほど飛べません。そのころは丁度飛べないヒナを育てる時期に当たります。体に近い次列(三列)風切りは黒く、翼をたたむと腰を覆うので、尾が黒いと間違われます。12枚の尾羽は白です。
寿命は、飼うと40年ほどですが、自然界ではせいぜい20〜30年でしょう。この点は、1988年から標識調査をしていますので、やがてはっきりします。今のところ、標識のないツルは千才で死んだことにするしかありません。ただ、3才までは、翼などに残る黒班で、ある程度年齢を推測できます(写真1)。しかし、これも確実とはいえず、2才で成鳥と同じ翼になるなど、個体差があります。
性成熟は満3才くらいですが、野外で実際に雛を育てるのは4・5才からが多いのです。ペアを組むのは2才くらいからで、夫婦は一生添い遂げるといわれます。ただ、番いの証明の「鳴き合い」は、2・3才から始まりますが、実際に繁殖を始めるまで、相手を代えるのも稀でありません。死別するまで本当に夫婦の絆は続くのか、なども含めて、これからも標識調査はますます重要になります。
巣造りは3月下旬〜4月下旬で、ヨシを主な巣材に、下面の平均直径1.6m、上面直径80cm、高さ20cmほどの円い台形の巣を作ります。1〜2日間をおいて2卵生むのが普通で、平均産卵数は1.8。卵は長径は10.5 cm、短径は6.5 cm、重さ240gほどですから、ニワトリの卵の倍の大きさで、体積なら約4倍です。卵の色は灰白色に茶色の斑点のある有色卵と、無地の白色卵の2種。抱卵期間は29〜36日で、孵えって約100日でヒナは飛べるようになります。
タンチョウは雑食性です。動物餌としてミミズやゴカイなどの環形動物、タニシや貝などの軟体動物、昆虫やザリガニ、カニなどの節足動物、それにギンポ類の海水魚やドジョウやトゲウオなどの淡水魚、カエルなどの両生類や小鳥のヒナやネズミ類の脊椎動物など、さまざまです。それに、ヨシ等の植物の根や芽、ミゾソバなどの花や種子、イヌスギナのえき芽、ナラの実(ドングリ)、それにニンジンなどの野菜、その他も食卓に上ります。
現在、タンチョウは北海道に700羽近くと、大陸に1,600羽ほどいると思われ、合計で世界に約2,300羽。大陸のタンチョウは、アムール川(黒竜江)と支流の松花江やウスリー川周辺のロシアと中国の湿原で繁殖。冬は中国の長江(揚子江)河口までの江蘇省の沿岸や、朝鮮半島の北部から38度線の非武装地帯にかけて現れます。大陸では春と秋に、毎年片道1,000〜2,000 kmも移動します。
日本ではこれほど長い移動は行わず、一部を除き、一年中北海道で暮らします。今、一部を除きと書いたのは、1970年代から北海道のタンチョウが、わずかですが国後島や歯舞諸島などの南千島で繁殖しているためです。そこでは冬を越さず、秋に釧路へ戻ることも標識調査で確かめられています。
今のところ、北海道と大陸の群れとの間に大きな交流はありません。ただ、二つの群れが、生物学的に全く同じか、何か違いがあるのか、まだよく分かりません。DNAなどの分析をもとに、そのへんの解析も行われようとしています。