ねぐらへ

 自然の餌を探しに出掛けていたツルも、夕方、また給餌場へ集まり、日没後30分以内に、雪裡川や阿寒川などのねぐらへ飛び去ります。ある1日の記録では、2羽で帰るのが全体の約20%、1羽が5%で、いずれも朝来たときの半分の割合でした。そのぶん、大きな群れが多く、10羽以上で飛んだのが40%近くありました。なんとその日の朝は、最大で8羽の群れがたった1組みでした。
 ねぐらへ戻ったツルは、川の中をしばらくうろうろ歩きます。やがて浅瀬に片足で立ち、首を後ろへ回し、頭を背中の羽毛にうずめて眠ります。
 しかし、そのまま朝までぐっすりとはいきません。ときどき目を覚まし、羽ばたきや羽づくろいのほか、ときにはちょっとした喧嘩も始めます。それに、何か不審なものが近づくと、一斉にさっと首を挙げて警戒します。
しかし、決まった見張り役はいません。眠りのリズムがツルで異なり、羽数が多くなるほど、誰かが目覚めていて、結果として見張りが多くなります。これが、集団で眠る利点です
 敵の気配で一斉に警戒したあと、安全だと分かると、よく踊りが始まります。厳寒のぴしっと冷たい夜空に満月がかかり、その澄んだ光を映す雪明かりの中で、暗い川面に白く大きなツルが乱舞する様は、まさに幻想的としかいえません。
川が凍ったり、蓮の葉氷が流れる寒い夜は、川に入れず、仕方なく陸で夜を過ごします。大陸のタンチョウは、北緯30〜36度で冬を過ごしますが、釧路は北緯43度です。1月の平均気温も、北緯36度にある中国の青島で−1.4度、北緯32度の南京で+2.1度なのに、釧路は−6.1度です。
 従って、大陸のツルより、冬は北海道のツルのほうがきびしい条件におかれます。それにより、採餌場とか、凍らないねぐらの位置や数も限られます。このことが、ツルを集中させる一つの原因ですし、北海道のツルの暮らし方を決める要因でもあります。